あらゆる産業に欠かせない
高度な表面処理技術
スマートフォン、パソコン、車、医療器具、食器。身の回りにはめっき処理の施された製品がたくさんある。ミクロエース株式会社はそんなめっき表面処理を得意としている企業だ。1952 年「宮崎編機工業企業組合」として設立され、当初は編物機の製造をしていたが、工程途中に加わるめっき処理に着目。以後、事業を金属の表面処理加工に特化させ販路を開いていった。当時から同社のめっき処理技術は高いレベルにあった。めっきは1年経たないうちにすぐ錆びるイメージが主流だったなか、同社は10年の耐食性を実現。「当社の今の技術であれば理論上250年は錆びることはありません」と柳は語る。その技術力から宮崎交通バスをはじめ大手自動車メーカーとの取引が開始され、車載品、バンパーなどを手がけた。現在では自動車、航空機、電子部品、半導体など、❶幅広い分野での関連品や精密部品の処理加工を担っている。
研究開発力は財産。
テクノロジーの進歩が
ビジネスと環境を調和させる
「売上の約20%を研究開発に充てています。うちの研究員は優秀ですよ」と柳が話すように❷同社の研究開発力は事業の大きな要だ。金属の表面処理で発生するさまざまな事象を分析しメカニズムを解明。その成果から新技術を開発し、特許を取得後、論文を発表する。国内外の大手は常に最新技術の情報をチェックしていることもあり、近年は論文からビジネスに展開するケースがほとんどだという。
表面処理の研究から生まれる新技術は自社工場の改善にも活用されている。❸企業理念に「環境と調和」を掲げる同社は、以前から課題だっためっき工程における排水の削減やリサイクル、スラッジ(汚泥)の減量に新技術を活用し、自社内でエコ・システムを構築。さらには❹環境負荷が低い「電解硫酸技術」による世界初の表面処理技術によって脱炭素ビジネスなど新市場への展開に取り組んでいる。海外での事業拡大に意気込みを見せるが、あくまでも地元企業として拠点は宮崎にこだわる。今後は場所を選ばない技術・特許によるパテント収入で利益拡大を目指す。
地域貢献と新市場展開の両立。
人材育成を通じ
世界に通用する企業を目指す
ミクロエースでは新技術を用いた新分野展開を計画している。今後10年は半導体市場の開拓に力を入れるほか、❺品質規格を満たす表面処理技術の開発成功によりEV(電気自動車)関連品のめっき処理も手がけることが決まっている。また、ゆくゆくは航空産業にも本格参入したいという。「技術の進歩が早い現代で、どう長期戦略を描くかが肝心です。5年、10年というスパンで予測をしないと足をすくわれます」。新分野立ち上げのタイミングなど変化が伴う瞬間は部署や働く現場によって温度差が生まれやすい。それもあり目下の関心は社内教育だという。「『失敗は全部私が責任とるから』と社員には言っています。失敗が許容される雰囲気がないとチャレンジできませんからね」。
業界では名の知れた存在の同社には高いスキルを持った県外技術者が転職するケースもある。ただし、柳は宮崎の若者雇用にこだわりたいと話す。「地元に根づくことが大事だと思っています。宮崎にも世界に通用する技術力を持つ企業があることを知ってほしい」。新市場への挑戦と地元人材の育成。ミクロエースの挑戦は終わらない。
表面処理技術に高い評価
技術、研究開発力に
世界も注目
2006 年、経済産業大臣賞 第1回「明日の日本を支える元気なモノ作り中小企業」の選定のほか、2019年には世界の科学者2,000人に選出された社員もいるなどその技術・研究は世界レベル。
環境に配慮した
表面処理に取り組む
2006年、「有害物質を使わない」+「排出しない」をコンセプトに宮崎市佐土原町にTRC工場を開設。2008年には環境マネジメントシステム「ISO14001」認証取得。
電解硫酸装置による
環境負荷の軽減
半導体製造や表面処理は洗浄工程が多く、薬品が大量に使用される。電解硫酸装置を用いると薬品に含まれる成分を二酸化炭素と水に分解でき、薬品使用を減らし、製造過程で発生する二酸化炭素も抑えることが可能。
新分野へ向けて工場増設
技術開発により受注が決まったEVのめっき処理。TRC工場にラインを増設し2024年8月の操業開始を予定している。