衰退する地元の農業。
農家の地位・所得向上を目指し、
改革に乗り出す

　株式会社くしまアオイファームは宮崎県串間市に本社を構える農業生産法人だ。串間市大束地区はサツマイモの一大生産地。最盛期で700ヘクタールほどの畑が広がっていたが、人口減少、就農者の高齢化に伴い現在では300ヘクタールを下回る。❶くしまアオイファーム創業者・池田誠もこの地でサツマイモ農家を営んでいたが、衰退していく農業と過疎化の進む地元に「新しいことに挑戦しない限り産地の存続が危うい」と危機を感じ、さまざまな改革に乗り出した。自ら営業を行い市場を開拓するとともに、❷サツマイモの独自ブランド化に着手するほか、海外出荷も実現。2013年に法人化して以降、業績を伸ばし続け2023年7月期の売上は21.7億円となった。
　自社生産のほか契約農家との連携、貯蔵庫・出荷場の整備により高品質かつ多品種なサツマイモを多量に取り扱うことができ周年出荷も可能。貯蔵設備の総収容量は約3,500トンに及ぶほか日量20トンもの出荷を可能とするなど❸安定的な供給体制を整えている。

可能性を否定しない。
強い農業をつくるため
自分たちに何ができるか

　「弊社には可能性を否定しない文化がある」と語る代表取締役社長の奈良迫自身、その言葉を体現している人物だ。奈良迫は元々サツマイモ輸出に関わる商社マンだった。「芋づくりのプロになりたい」と2016年1月くしまアオイファームへ入社。「農業といえどベンチャー企業なので何でもやりました」と当時を振り返る。
　2018年、世代交代を考えていた池田の発案により行われた❹「社長内定総選挙」によって、いち社員だった奈良迫が次期代表に選ばれた。「実力はない、運だけですよ」と謙遜するが拡大する組織を着実に束ねている。代表の世代交代が象徴するように同社では若い就農者人口の獲得に力を入れている。スタッフの平均年齢は約35歳と、国内農業者の平均年齢が65歳を超えるなかでは異例だ。異業種からの転職も相次ぎ、多様な人材が集まっている。「農家さんのために何ができるか常に自分たちのバリューを問われる環境です。部署の枠を払って動くこともあります」。

世界一のサツマイモ企業を目指し
時代、世代、世界を越え、
人々を肥やす

　「強い農業はこえていく」​​。その経営理念のもと歩みを止めることはない。化学肥料を減らし環境や生態系に配慮した栽培法を取るほか、❺東南アジアでの小芋ニーズを汲み販路を開拓したことで食品ロスを削減。「弊社は何かで1番になることを常に目指しています。本来はロスになる小さな芋を集めるのは農家からすると面倒でもある。しかし、そこに商機があるのならチャンスは逃さない」と奈良迫は語る。
　将来への取組として、農業人材育成のため熟練農家のノウハウ継承や地元の学校を対象にした教育・食育活動も行う。2018年10月には宮崎大学農学部との共同研究講座「MTALab」を設立。その成果として❻サツマイモの花から蜂蜜を採取するなど新事業が動き出している。また2023年12月には、沖縄県に子会社「おきなわアオイファーム」が設立され海外への出荷をより強める動きだ。「地域農業は現状維持すら難しい状況にあります。会長の志を受け継いで農業者の地位や所得を向上させていくのが私の役目です」。「世界一のサツマイモ企業」を目指すくしまアオイファームの挑戦はとどまるところを知らない。